Sig’s Book Diary

関心本の収集

『からくりからくさ』

original: http://blog.goo.ne.jp/sig_s/e/8a1b67f37c9948a9979dad6c5497217c
梨木 香歩、2002、『からくりからくさ』、 新潮社(新潮文庫)

「りかさん」と名付けられた市松人形とその所有者の蓉子と、「りかさん」をくれた亡くなった蓉子の祖母の家で同居を始めた女性3人の物語。彼女らの成長の物語である。
蓉子は草木染めの染織家をこころざし、父は画廊を営む。「りかさん」と切り離された自分は考えられない。専用の食器に食事を盛り、着せ替えをし、食卓に「りかさん」をつける。アメリカ人マーガレットは祖母は中欧の生まれのユダヤ人、しかし、祖父は中東のクルド族。日本に憧れ、鍼灸大学に学ぶが、合理的な嗜好の持ち主で、蓉子と「りかさん」との関係が理解できない。織物作家を目指す学生の紀久は全国の女性作家にインタビューして出版を目指している。与希子はクリエーターである。
彼女たちの「りかさん」の持つ不思議な縁は彼女らをまとめる。ストーリーの最後は劇的である。彼女は、「りかさん」の昇天とともに、脱皮をとげるのである。
言葉をしゃべる人形でもなく、何かの不思議を起こす訳ではない人形の「りかさん」が狂言回しとして、彼女らの人生に大きな影響を及ぼすのである。
西欧合理主義のマーガレットは、「りかさん」のような、人間ではない存在に魂を認めようとする日本人の心に合意はできない。しかし、やがては、ある種の得心が生じる。物と人、あるいは、モノと心の関係が描かれ、同時に女性の物語としての本書は、人々の心を揺さぶるだろう。

からくりからくさ (新潮文庫)

からくりからくさ (新潮文庫)