Sig’s Book Diary

関心本の収集

『失われた手仕事の思想』

original: http://blog.goo.ne.jp/sig_s/e/72f533e6d98309b7678154a0ebd67ad0

塩野 米松、2001、『失われた手仕事の思想』、草思社

著者は日本全国をめぐり、職人にインタビューし聞き書きを残している。本書は、四章から構成され、まず、第一章の「消えた職人たち」では、各地の野鍛冶、炭焼き、船大工などを取り上げて、インタビューにより、職人たちの仕事ぶりや素材、道具などについても詳しく述べる。第二章の「輪廻の発想」では、第一章で取り上げた様々な職業が、つながりあって、結果的には野山を守ってきたことを指摘する。職人たちの仕事は、切り離された単独のものではなく、関連するさまざまな職人仕事あってのもので、一つでも失われると、瞬く間に、関連する仕事も失われてしまうのである。そして、自然もまた失われていく。手仕事は、自然の産物を人間が利用するための知恵の蓄積であり、職人の仕事は人間と自然との調和ももたらしていたのである。
第三章は「徒弟制度とは何っだったのか」と題されていて、職業観の変化や最低賃金制度の誕生により、親方と生活をともにしながら親方の仕事を見てまなぶ徒弟制度がいかに失われたかについて、家業について取り上げるとともに、述べている。第四章は「手の記憶」と題されていて、身体で覚える手仕事が、機械によって代替されていくようすが描かれる。たとえば、漁師は海底の地形や海藻の生育などをインデックスとして漁場を記憶し、また、自然と向き合うことで潮や気象の変化を経験的に学習してきた漁師の仕事が、魚群探知機をつかい、GPS、レーダー、FRP製の漁船、強力なエンジンを駆使するようになった。つまり、伝統的な経験と学習とは異なる技術の導入により、自然を深く知らなくとも技術的な知識があれば、可能な職業になってしまった。そして、本書を次のようにむすぶのである。

生活からはすっかり職人たちが消え、彼らが残してくれた道具や品物も命をまっとうしようとしている。
手仕事の時代は終わったのだ。

失われた手仕事の思想

失われた手仕事の思想