『深海のYrr』
original: http://blog.goo.ne.jp/sig_s/e/550606660fafc702b6b03ad2a3ca5c26
フランク・シェッツィング、2008、『深海のYrr』(上)(中)(下)、早川書房(ハヤカワ文庫 NV シ 25-1,2,3)
プレートテクトニクス、地球温暖化、メタンハイドレート、ファーストコンタクト(知的生物との遭遇)、進化論、深海、アメリカ合衆国の独善、構造地震と津波などなど、今時のトピック盛りだくさんな海洋冒険SF小説。三巻本だが、読み始めるとはまって読み進めること請け合い。入眠前のひとときというには、いささか刺激が強い。
圧巻は、北欧の各地が津波で飲み込まれるところ、それに、エンディングでの深海の知的生物「Yrr」によるヘリ空母への攻撃から主人公の脱出の過程であろう。まあ、せっかくだから、ネタばらしはやめておくことにしよう。皆様、お楽しみあれ。
さて、本書を読んで興味深かったことは、本書が、自然科学的な視点に依拠しつつ、環境問題について明確な立場、すなわち、人類による深海環境への「攻撃」(環境破壊)が引き金となって「Yrr」の出現を生んだということである。かつてのゴジラのように、環境破壊(ゴジラの場合は、核実験)によって生物システムの根幹を乱して巨大化したと、生に環境破壊を告発している訳ではない。環境破壊の連鎖が、深海生物である「Yrr」への攻撃とみなされ、その対抗処置として、人類を地球環境から抹殺すべく、登場したのだという設定がきわめて論理的で、大変面白い。
当然、最新の自然科学的な成果を利用して、複合領域の中で本書のストーリーをは展開されていく。「Yrr」による人類へのジェノサイドは、進化論上の問題でもある。たとえば、単細胞生物の集合体である「Yrr」が知的生物であるかどうか、また、単細胞生物を、進化のどの段階に位置づけることができるのか。また、同時に地球環境に強大な影響力を持つに至りm地球を支配下においているかに見える人類との優劣関係について、本書の中で明らかにされるのだが、この展開も大変面白い。
評者は、フィクションである本書をノンフィクションであるかのように読んでしまったのだが、人類にとっての最後のフロンティアであり、全く未知といってよい深海には、何があるのかわからないという意味でも、どきどきさせられる。昨今の原油価格高騰でメタンハイドレート採取が現実味を帯びてきているが、これもまた、本書のリアリティを否が応でも増すのである。
- 作者: フランク・シェッツィング,北川和代
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2008/04/23
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