Sig’s Book Diary

関心本の収集

『進化しすぎた脳』

original: http://blog.goo.ne.jp/sig_s/e/09bb7ff478eb7f62e1084ae02409db03

池谷裕二、2007、『進化しすぎた脳』、講談社ブルーバックス

本書は、2004年に同名で出された朝日出版社のそれに一章を追加し再版したものである。先に出版された部分はニューヨークで中高生と対談するという趣向になっていて、今回追加された章は、現在の研究生の院生との会話という形になっている。

本書の主要トピックはもちろん脳に関する最新情報ではあるが、同時に自然科学方法論ともなっていて、興味深かった。たとえば、視覚情報について例を出すと、人間の網膜は、デジタルカメラの100万画素程度のもの(せいぜいが携帯電話に実装されている程度の画素数)であるが、そういった貧弱な情報を脳があらかじめ持っている情報(80%にも及ぶという)で補填していることがそれである。
つまり、人間が目で見ていると思っていることのうち、80%が脳が作り出していること、「真実」の80%は脳が作り出した映像であるというのである。100万画素程度であれば、輪郭はギザギザであるはず(網膜にはそのように写っているはず)なのだが、脳はスムーズなものと理解する。また、移動するものであれば、それを同じものとは理解できないほどのとぎれとぎれのスキャンしかできていないにもかかわらず、脳は類推によって同一物が移動したと見なし、その間の連続画像も見えたものとして見えてしまう。
さらには、脳が言葉を生み出し、自然科学も含めて現象は言葉によって語られるのであるから、先の視覚情報の理解をふまえても、果たして何を見何をとらえ何を理解しているとしていえるのか。ここで、主観か客観かを議論しようというのではなく、そのような脳の能力と実態とをあわせて、脳を理解していくことの意味は大きいといえよう。

一問一答形式となっていて、脳科学の第一線を理解することができるとともに、認識とは何か、言語とは何か、現象とは何か、ひいては自然科学とは何かについて、改めて考えされてくれる。