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『勘定奉行荻原重秀の生涯:新井白石が嫉妬した天才経済官僚』

original: http://blog.goo.ne.jp/sig_s/e/e8a2d8169fb5030accbdd47b8574c985

村井淳志、2007、『勘定奉行荻原重秀の生涯:新井白石が嫉妬した天才経済官僚』、集英社新書

本書は、元禄時代の幕府経済官僚であった勘定奉行・荻原重秀の生涯について、資料に基づいて追跡したもの。携わった数多くの業務に関わらず、後世に名の高い新井白石によって悪し様に業績をそしられた謎多い荻原重秀の業績を追う。
その第一は、最も悪名高い元禄改鋳である。幕府の財政改革のために、金の含有量を下げたにもかかわらず等価流通を強制した。著者は、実物貨幣から名目貨幣への変更をケインズに先駆けて行ったのが荻原だと指摘する。
金属貨幣は、等価交換を前提とした物々交換を出発点とするので、例えば希少性のある、金銀などの含有率が貨幣尺度として用いられるという。それに対して、たとえば、紙幣のように希少性ではなく国家による信用に基づく名目貨幣への切り替えととらえると、よく知られるグレシャムの法則の「悪貨は良貨を駆逐する」ので良貨が退蔵されるので改鋳はあってはならぬ政策という考えとは、見方が異なる。
つまり、国家が信用を前提として通貨交換比率を固定するというブレトンウッズ協定から、変動相場制へと移行させ、貨幣の価値を金の価格の裏付けから自由にするという、1950年代から70年代の経済体制の変化をいわば萌芽的に先取りしたというのだ。
荻原の業績は、これにとどまらない。大規模検地や、佐渡奉行として金の産出に関わる業績、また、長崎における金銀を輸出し生糸を輸入するという対外貿易の歪んだ構造を是正しようとするなど、その当時にすると、画期的な金融財政政策を立案実施したのである。それに対する新井白石は因循墨守としか言いようがない。ま、保守派の方が評価が易く、改革派は毀誉褒貶はなはだし、といったところであるか。

勘定奉行荻原重秀の生涯―新井白石が嫉妬した天才経済官僚 (集英社新書)

勘定奉行荻原重秀の生涯―新井白石が嫉妬した天才経済官僚 (集英社新書)