Sig’s Book Diary

関心本の収集

『精霊の守り人』

original: http://blog.goo.ne.jp/sig_s/e/28a4d6cfd0639ec5a50a40767ac67d5a

上橋菜穂子、1996、『精霊の守り人』、偕成社

BS2で4月から放送が開始されたアニメ『精霊の守り人』の原作。始める前に読み終わろうと思ったのだが、遅れを取った。ご恵贈いただいてから、もう10年もたつのに、怠惰なことで申し訳ない。

ストーリーは各所で書かれているだろうし、また、アニメを見るとして、この物語についてのコメントを少々書いておくことにしよう。
上橋の文化人類学者としてのバックグラウンドが書かせているのか、語り部としての彼女が素のまま語っているのかわからないが、ストーリーの中の「夏至の祭」についての記述が興味深かった。
この記述は、終盤ナユグの世界からやって来て百年に一度見舞われる大旱魃をいやす慈雨をもたらす「ニュンガ・ロ・イムの卵」を食らううラルンガとバルサたちの戦いの直前にあらわれる。
新ヨゴ王国の領土となったナヨロ半島の先住民で姿を消したヤクーの血を引く「呪術師」のトロガイたちが、支配者によって語りが変えられてしまったと見なし、軽視してしまった「夏至の祭」の伝承。さらに、建国者によるラルンガ退治という神話によって、真実が隠蔽されたために体制側の「守り人」である「星読み」たちにとって、神話が創られる以前の物語を発見することは困難であった。現実となって出現するラルンガとの対峙法は、「夏至の祭」のなかにあった。それは、たいまつを使って土蛇を対峙するというパフォーマンスであった。
儀礼についての解釈は時代によって変わりうるが、パフォーマンスそのものに儀礼の意味の本質が隠されていたということであった。つまり、以前上橋の著作(『獣の奏者 』)を評したときにも述べたが、構造主義的である。解釈はその時々によってかわるが、潜在する構造はかわらないというのである。水を象徴する「ニュンガ・ロ・イムの卵」、土を象徴するラルンガ。水は土に負け、土は火に敗れる。こうしたシンボリズムが「夏至の祭」に隠されていたというのだ。
ふりがな付きの子供向けの本に見えるが(出版社も偕成社で、そのながれ)、上橋のそれは、全くそうではないだろう。どこかの書評で読んだのだが(申し訳ないが失念)、子供に読ませるのはもったいない。大人が読むべし。
今回触れなかったが、女用心棒のバルサとならぶ、主人公のチャグムの成長の物語も、大変興味深い。

精霊の守り人 (偕成社ワンダーランド)

精霊の守り人 (偕成社ワンダーランド)