Sig’s Book Diary

関心本の収集

『墨攻』

original:http://blog.goo.ne.jp/sig_s/e/ceb9e8918f0051a7734122feb23537d3

酒見賢一、1991、『墨攻』、新潮文庫

中島敦記念賞受賞の本書は、最近では同名の映画(アンディ・ラウ主演)の原作としても知られている。

墨子の名は中国戦国期の諸子百家のうちのひとつとして知られているが、墨家の活発な活動で「儒墨」と並び評されたにしては、あっさりと姿を消してしまっていて、現在でもなぞが多いのだそうだ。墨守墨家たちが城を堅守したことからの造語であるというが、本書は、墨守の様子を作中描きながらタイトルを「墨攻」と名づけた。

主人公の革離は、墨家集団でも墨子の思想を墨守する人物として描かれる。たった一人で、小城に出向き、女性や老人を含む一般庶民を指揮して、趙の大軍から城を守るためにさまざまの軍事技術を指揮する。そして、革離のあっけない死によって、城は落ちてしまう。

墨家たちは、「非攻」を唱え、非戦を主張した。それは、近代戦の中では非正規戦闘員として扱われるにもかかわらず、無差別攻撃(古代の戦争では、篭城戦がこれにあたるか)では損害がもっとも大きい庶民の側から、庶民を守るための技術者として墨家の存在意義があったようである。

墨家の戦争についての考えは、ある意味非常に近代的である。近代戦では、無差別に非戦闘員を巻き込み、また、軍服をまとわないゲリラやパルチザンが戦いの死命を決する決することも少なくない。そうした時代であればこそ、墨家の「非攻」は新鮮にうつる。国際関係論あるいは国際平和論として、墨子を読むというのもよいのかも。

松岡正剛の千夜千冊『墨子』:http://www.isis.ne.jp/mnn/senya/senya0817.html

墨攻 (新潮文庫)

墨攻 (新潮文庫)