Sig’s Book Diary

関心本の収集

『循環と共存の森から:狩猟採集民ムブティ・ピグミーの知恵』

original:読書と夕食: 『循環と共存の森から:狩猟採集民ムブティ・ピグミーの知恵』:http://blog.goo.ne.jp/sig_s/e/a499bf4aa7b9d654c5689726434c92c5


船尾修、2006、『循環と共存の森から:狩猟採集民ムブティ・ピグミーの知恵』、新評論

著者は写真家、プロの人類学者ではない。その彼がコンゴ民主共和国東北部のイトゥリの森に住む「ピグミー」のもとで、まるで人類学者による長期のフィールドワークのようして暮らした体験をもとに、人類の最古の生業である狩猟採集が人類の歴史にとってどのような意味を持っているのか、また、現代社会について、人間およびその人間関係のありかたの再考を呼びかける。もちろん、かれは人類がすべて狩猟採集に戻ることなどできないことも踏まえている。しかし、それにもかかわらず、森に暮らすムブティ・ピグミーの生き方に強い共感を寄せながら、われわれに生き方の再考を迫るのである。

本書は著者の撮影した穏やかな表情のムブティたちであふれている。われわれが当たり前と思い込んでいる、目前の緊張すべき状況への対応について、それは、違うかもしれないとのべる。ハンティングのための網を密林の中にしかけ、今か今かと獲物を待ち構えるムブティの表情は穏やかだと言う。われわれだとおそらくは、何かの結果を得ようと待ち構えるとき、のどが渇き、緊張で表情がこわばっているに違いない。しかし、ムブティは違う。むしろ遠くを眺めるようなまなざしになると言う。緊張とそのストレスの中で生きなければならないわれわれとすると、ある意味うらやましい対処法ではある。
もちろん、ムブティたちの理想郷を描こうとしたわけではなく、森の中で暮らす彼らにしても外部からの圧力が迫っている。そうした状況に生きなけばならない彼らの生活が、われわれの生活の、あるいは精神の、オルタナティブを示唆しているのである。

私たちは、第一次アフリカ大戦のさなか、大混乱の中にあるコンゴ民主共和国において生き続ける人々としても、また、同時代に生きる人類の一員としても、わたしたちは、ムブティたちに学ぶことはたくさんある。
並みの教科書よりも本書はたくさんのことを教えていると思うのだが。


循環と共存の森から―狩猟採集民ムブティ・ピグミーの知恵

循環と共存の森から―狩猟採集民ムブティ・ピグミーの知恵