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『誰も知らなかった皇帝たちの中国 』

original: http://blog.goo.ne.jp/sig_s/e/9a954a7576a3b393717cd9fb4b6fad44

岡田 英弘、2006、『誰も知らなかった皇帝たちの中国 』、ワック(WAC BUNKO)

現代に生きるわれわれからすると、現在の国家観からはなれて過去の状況を見ることは困難ではあるが、しかし、本書を読むと、目から鱗であろう。だからといって、為政者の、あるいは、現在の国家の立場からの、国家主張がかわる訳もないということではあるが・・・。
本書の述べているのは、漢人とは何か、漢字と言語、「中国」皇帝とは何か、「中国」の版図(領域)の広がり、「中国」と周辺地域との関係、などについてである。著者は、中国史歴史学の泰斗で、歴史の既成概念もこれまで繰り返し覆してきた。詳しくは、本書を読んでいただくしかないが、ごくごく簡単にまとめておこう。まとめが間違っていたりして・・・。

漢人とは、中国の長い歴史のなかで繰り返し生成されては、変貌を遂げ、周辺の様々な文化との関わりのなかで形成されてきた主観的「民族」とでもいうべきもので、現在の「漢族」意識は、18世紀以降、新たに生まれてきた国民国家の主体となるべき国民=民族概念によって補強されてきたものである。つまり、東夷、北狄西戎、南蛮に対する中華という意識は、実態としてはこれらが混ざり合い、中国4000年の皇帝支配のなかではむしろ、異民族の皇帝による支配の時間が長かったが、そうした異民族の皇帝による支配もまた、中華思想のなかに組み込まれてしまう。
中国語は、現在の普通語の誕生までは音声言語としては、多様であって、漢人といえども一つの言語を話すものではなく、ただ、漢字を共有し異なる音を当てることを許容することによって、漢字を共有する漢人という幻想を作り上げることになったのは、初代皇帝ともいうべき、秦の始皇帝によるところが大きい。
中国の国家は、古代都市国家を起源としていて、「中国」皇帝は、広大な版図の市場としての都市を点として支配する、商人もしくは市場の支配者であって、広大な版図をすべて統治していた訳ではない。また、皇軍は皇帝のポケットマネーにより運営され征服が企図されたのである。朝貢とは、市場支配者である皇帝の朝廷にたいして、贈り物をもたらし、皇帝は人民の面前で贈り物を披露することにより自らの権威を高めるために儀礼を行ったのであって、支配被支配の問題ではない。朝貢する側も権威を持つ皇帝の影響力を考慮してパフォーマンスとして行ったものである。皇帝の権威は、本来天から授けられたものであって、その正統性が大切で、初代の黄帝との系譜のつながり(血脈)、禅譲(先の皇帝から、帝位を譲り受けること)が伝統を継ぐということであって、それ以外の簒奪は正統性を継がない、伝統に欠けるものであった。
中国皇帝は、中国(といっても、領域的な実態がある訳でもなく、漢人以外の東夷、北狄西戎、南蛮も、時には含み込む)のみの支配者であった時期もあったが、元朝清朝の皇帝のように、遊牧帝国のハーンであり、同時に、中国皇帝でもあり、かつ、チベット仏教の大施主でもあり、東方の交易ルートを支配するという存在でもあって、中華民国中華人民共和国が中国皇帝の清朝の版図を継ぐという大漢族主義は、中国皇帝システムの歴史から見ても奇妙である。

誰も知らなかった皇帝たちの中国 (WAC BUNKO)

誰も知らなかった皇帝たちの中国 (WAC BUNKO)