Sig’s Book Diary

関心本の収集

『眠れない一族:食人の痕跡と殺人タンパクの謎』

original: http://blog.goo.ne.jp/sig_s/e/fb4daccac66ca3ce20e936fe19508cfd

ダニエル T.マックス、2007、『眠れない一族:食人の痕跡と殺人タンパクの謎』、紀伊國屋書店

プリオンを原因とする遺伝性、感染性、散発性の致死性の脳神経疾患を巡るミステリーは、人類の食人の痕跡の発見から、致死性家族性不眠症、羊のスクレーピー病、BSE(いわゆる狂牛病)、ニューギニアクールー病、そして、北米の野生の鹿やエルクの慢性消耗病などを巡る。同時に疾病を巡る家族の行動や生き方、考え方、また、一連の疾病が、病原性タンパク質によるとしたガイジュシェックとプリオンと命名したプルジナーの二人のノーベル賞受賞者の功名合戦やその研究態度、その他の研究者群像、これらもまた、興味深く描かれている。そして、医療行政や畜産行政にかかわる組織および官僚の態度もまた、よってくだんのごとしと、思わせる事が書き綴られている。

病気と人類の共進化という関心からみて、本書は面白かった。特に、食人に関する項である。本書では、新人、旧人、原人が混線して書かれていているように見受けられるので、その点差し引かねばならないが、食人とプリオンをめぐる病気と人類の共進化は、以下のようなシナリオであったことが、本書から読み取れよう。

まず、人類の食習慣からして、人肉もまたその食品リストに載っていただろう。そうした、行為の中で、たまたま、変異性のプリオンを持つ人肉が食されたとき、食人の連鎖は、致死的なプリオン病を蔓延させる事になった。
もし、そのプリオン病が即効性であれば、瞬く間に人口集団を絶滅させるために、こうした、プリオン病は淘汰され、遅効性のプリオン病が残った。
また、プリオン病を発病させやすいのはアミノ酸の「パリン」ホモ接合体をもつ個体で、それに対してヘテロ接合体は発病しにくい。その結果、人類の中でホモ接合体が次第に淘汰されてゆき、結果として、多くの人口集団では、ヘテロ接合体を持つ個体数の方が多くなっている。ホモ接合体とヘテロ接合体の割合が、異なっている人口集団の存在が知られていて、この事は、食人によるプリオン病に対する感受性が人口集団によって異なる事を示している。
さて、ここでの「プリオン病」というのは、例えば、致死性家族性不眠症のような特定の病態を意味するのではなく、広い意味での、タンパク質折り込みの変異型に起因する様々な脳神経疾患すべてが該当する可能性があろう。これまで、アルツハイマー病とされていた病態の中にも、広義のプリオン病である可能性が、本書の中で示唆されていて、病気と人類の関係性にますます関心を深める事になった。

ついつい引き込まれてしまい、一気に読んでしまった。以下の本もあわせて読んでみるべし。

読書と夕食:『プリオン説はほんとうか?:タンパク質病原体説をめぐるミステリー』:http://blog.goo.ne.jp/sig_s/e/5b99f764399f0586183f480023bc189f

眠れない一族―食人の痕跡と殺人タンパクの謎

眠れない一族―食人の痕跡と殺人タンパクの謎