Sig’s Book Diary

関心本の収集

『ロボット化する子どもたち:「学び」の認知科学』

original: http://blog.goo.ne.jp/sig_s/e/288432933695dbc558a8d4c3c33b4fe3

渡部信一、2005、『ロボット化する子どもたち:「学び」の認知科学 (認知科学のフロンティア)』、大修館書店

本書は、様々な問題が生じている現代の「学び」について、ロボット開発や自閉症教育における「学び」、職人の「学び」を踏まえて、21世紀の「学び」を構築しようという試みである。

ロボットに自立的な行動を指せようとすると、従来の開発方針では、様々な状況における対処方法について、あらかじめプログラミングしておくというものであった。しかし、たとえ、部屋の中で移動させるとして、あらかじめ配置される様々な家具などの位置を覚えさせ、ぶつかったときにどのように回避するかを決めておいたとしても、もし、誰かが何かを部屋の中に持ち込めば、ロボットはたちまち立ち往生してしまうだろう。人間の行動をシミュレーションしようにも、人間には簡単にできる変化する状況に対応しながら行動するということも、ロボットにとって甚だ困難である。
自閉症児は、それと似て、既知のパターンの中で行動ができるが、ひとたびそこから外れた状況では、その次の行動が続いてできない。障害児教育では、「スモール・ステップ」とよばれるカード型の行動指針を教えて、行動をパターンとして覚えさせる「教え込み型」教育の方法をとって教育しているが、障害児の障害のレベルによって、様々な、パターンの「スモール・ステップ」を必要とするし、もちろん偶然生じた例外的な状況への対処は、困難である。
本書では、障害児の例として著者が教育にかかわった習平君という自閉症児の15年の学びを通して、「教え込み型」ではなく「しみ込み型」、状況の中で自らが「学び」を発見していく事の重要性が指摘される。
学校における教育は、事細かな学習内容をカリキュラムに従って学ばせる「教え込み型」教育といえようが、例えば、職人の修行の過程は「しみ込み型」教育の典型であろう。言葉でインストラクションするのではなく、見て学ばせる事が大切といえる。

本書は、ロボット開発と自閉症児の「学び」、職人の「学び」という一つ一つはわかりやすく、同時に総体として「学び」とは何かについて再考させてくれる、お勧めの一冊!

ロボット化する子どもたち―「学び」の認知科学 (認知科学のフロンティア)

ロボット化する子どもたち―「学び」の認知科学 (認知科学のフロンティア)