『グロテスク』(上)(下)
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桐野夏生、2006、『グロテスク』(上)(下)、文春文庫
エリートOL殺人事件を題材にした本作は、伏線がたくさん張られていて、「真実は小説よりも奇なり」の逆、やはり、「小説は真実よりも奇なり」というべきか。
小説に登場する人物は人間の持つさまざまな本性の一つを一人の人間に当てはめて、ある意味、極端な人物をつくることになるから、本当にはありえないようなキャラクタでありながらも、人間の持つ本性を描き出すことになる。『グロテスク』の登場人物たちは、本書の語りの中で、さまざまな語りを示し、どれが本当であるのかを読者に読み解かせようとし、また、その輻輳する語りが読者をひきつけることになるのだ。本書の題材は、昼間はエリート会社員である女性が、夜間は娼婦となって街角に立ち、ついには殺されるにいたったという事件で、この大きなギャップを人間に対する深い、そして、重層的な理解によって、埋めていこうとする。
もちろん、答えを一つ出したわけではなく、むしろ、読者にその理解を任せるわけではなく、「あんたも、考えなさい」と放り出したというべきだろうか。読後、重い気持ちで、しばらく声も出なかった。
- 作者: 桐野夏生
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2006/09/01
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