Sig’s Book Diary

関心本の収集

国立新美術館「エミリー・ウングワレー展」

original: http://blog.goo.ne.jp/sig_s/e/a61dce812dd52c2fbc6b16738ffbec2f

国立新美術館の「エミリー・ウングワレー展」およびヒルサイドギャラリーの「エミリー・ウングワレーを超えて−オーストラリア・アボリジニアートの世界」をあわせてみてきた。

前者は、この「読書と夕食」でも2月25日に触れた事があるが、5月28日から会場を国立新美術館に会場を移して、7月28日まで展示される。その後、オーストラリア国立博物館(キャンベラ)で8月から開催される予定である。

エミリー・ウングワレーは1996年に亡くなった(1910年頃の出生)が、キャンバスに描き始めたのは最晩年で1988年からの事であった。この時期、ユートピアでは、初めて女性によるキャンバス画が描かれたのだという。エミリーの作品もそのひとつであったという。それまでは、彼女の故郷の中央砂漠のユートピアにおけるバティック工房で作品を制作してきた。本美術展でもバティックの作品が展示されているので、共通のモチーフや筆の運びを見る事ができるだろう。

中央砂漠では、いわゆる「ドット・ペインティング」は男性作家によるもので、女性作家はインドネシアからのバティック技法を用いて、布地に「伝統的な」文様を描いていた。実は、女性作家の登場という現象は、中央砂漠のみならず、オーストラリアのほかの地域のアボリジニ絵画にもみられる。描かれるモチーフの世俗化、もしくは、儀礼に用いられるモチーフの公開、あるいは、女性の関与の許容といったことが起きたものと考えられる。女性に開放されるだけではなく、若い作家の誕生や描かれるモチーフが特定の家系による独占ではなくなった事と言った現象も見られた。同時に、アボリジニ芸術のオーストラリア芸術における位置づけが高まった時期と見なす事もできよう。芸術市場は新たな作家の誕生を歓迎したのである。

本美術展では、エミリーの作風の転換をいくつか指摘している。ほぼ時間軸にそったものと考える事ができよう。「伝統的な」ドット・ペーンティングの手法によるものから、ドットのサイズが次第に大胆に大きくなって行く。また、色彩についても、くすんだ色遣いから、鮮やかな赤色系の使用や緑色系や青色系を多用するようになる。さらに、モチーフからドットを追放し、線状の表現が現れる。網状の表現から、直線をもちいたものに、そして、線状の表現も規則的なものから、不規則なものへと変化して行く。最晩年は、そうした線状のモチーフも消滅し、微妙な色遣いで大胆にキャンバスを塗ってゆく。下地かとも思えるが、そうではない。

会場の天井は高く、その点、広々とした展示空間はエミリーの絵画表現にとてもマッチしている。また、大作が多いので、大きな壁面の存在はとてもよい。国立国際美術館は、もう少し小品の展示に向いた空間のように思える。また、明るさもよかったのではないか。

ヒルサイド・ギャラリーの「エミリー・ウングワレーを超えて−オーストラリア・アボリジニアートの世界」では、エミリーのほか、ユートピアほかの中央砂漠の女性作家たちの作品が並べられている。ただ、この展示は商業ギャラリーの主催になるものであるので、価格が付けられている。エミリーの最も高価な作品には2600万円の価格が付けられていて、ほかの作品にも1000万円近いものも含め、数百万の作品も多く見られた。商談中もしくは販売済みの印とも思えるマークがかなりの作品に付けられていて、コレクターがこれらの作品に注目しているという事もわかった。私のような、コレクターでないものからすると、制作年の情報が書かれていないのが、残念に思った。

なお、6月22日にNHKの「新日曜美術館」(教育:朝9ー10時、再放送20ー21時)でも国立新美術館の「エミリー・ウングワレー展」を紹介する放送がある。また、テレビ東京の「美の巨人」でも「エミリー・ウングワレー「アルハルクラ」」と題する番組が6月7日に22時から放送される。

NHK新日曜美術館」放送スケジュール:http://www.nhk.or.jp/nichibi/weekly/index.html
TV東京「美の巨人」:http://www.tv-tokyo.co.jp/kyojin/index.html

国立新美術館エミリー・ウングワレー展」:
http://www.nact.jp/exhibition_special/2008/Utopia/index.html
エミリー・ウングワレー展」:http://www.emily2008.jp/
ヒルサイドギャラリー「エミリー・ウングワレーを超えて−オーストラリア・アボリジニアートの世界」:
http://www.hillsideterrace.com/art/080529.html

National Museum of Australia, Canberra:Utopia: The Genius of Emily Kame Kngwarreye:http://www.nma.gov.au/exhibitions/international_exhibitions/

Utopian Aboriginal Art: http://www.utopianaboriginalart.com.au/index.php
Utopian Aboriginal Art Gallery: http://www.utopianaboriginalart.com.au/aboriginal_art/

読書と夕食:国立国際美術館エミリー・ウングワレー展」:http://blog.goo.ne.jp/sig_s/e/111d88f9e512888632420542a370b636